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わし
和紙
東野辺 薫
「東北文學」1943(昭和18)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页
漉屋の壁に面して、坐業の低さに置いてある三尺に二尺ばかりの平たい石が楮叩きの台であった。家にあるのは、友太の話によると、父の惣次郎が炭山から戻って来て、いよいよ紙を漉くことになった時、旦那からお祝として贈られた御影石の極く上等のもので、どの家のも三寸内外の厚さであるのに、それは特別五寸からあるというのであった。楮さらしの済んだ楮を少しずつこの台にのせ、太い丸棒で叩きぬいて、すっかり繊維を砕いたべとべとのものにしてしまう。楮の処理の仕上であった。小鉢に一つ、一槽分を叩くのに一時間前後はかかった。そこの壁には、はね飛んだ楮のつぶてが一面に白く粘り付いていた。ど、ど、ど、と単純な鈍い響きが、母屋の居間で縫い物をしているとしゑを、時として郷愁にも似た頼りなさに誘い込んだ。こういう時は、土間でせっせと紙付けをしている姑のおときにも、滅多に話などはしかけられない緊張があって、いよいよとしゑを孤独なものにした。
「紙付け」と言われている紙乾しが、大体おときの受持になっていた。漉屋の奥にある圧搾器で充分水分を搾り上げて、しっとりと湿った程度になった紙の束は、台板に乗せて母屋の土間に運ばれる。