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わし
和紙
東野辺 薫
「東北文學」1943(昭和18)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页
もとからの関係で、今では殆んど縁戚同様のつきあいをさせてもらっているのが、惣次郎夫婦のひそかな誇りであったし、またそれを恩に被ることも忘れなかった。一方、組合長の安斎保男氏にすれば、父の代から特別に目をかけてやっている正直者の惣次郎が、誰よりも気を許して仕事をさせられるのであった。
いつも穏やかな表情で家に戻ってくると、惣次郎はきまって出がらしのお茶をゆっくりと飲むのだった。無口で、暖い日に縁側で漉簀の繕いなどをしている時は、半日も黙り通すことがあった。機嫌を損じているのだろうかと、来た当座は気になったが、としゑはそれにもいつか馴れて来た。
「んだで、まあ五年がせいぜいかな。二年目には編み直しをしねなんねえしな。」
簀にせよ簀框にせよ、五年ぐらいの使用で駄目になるが、紙にしたら十万枚は漉けるということを、としゑが訊けばぼつぼつ話してくれた。およそ簀と呼ばれるもののうちで、これほど精巧で緻密なものが他にあろうかと思われる漉簀の美しさをとしゑが感歎しても、そういうことには一向無関心であるらしく、んだでなと言っただけである。これもまことに好い日であって、雪解けの道を友太のゴム長を借りたとしゑが、惣三の案内で、五六町ある小山に炭焼をしている惣次郎に弁当を届けに行くと、口数はいつもの通り少く、そんなに歩いても大丈夫