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わし
和紙
東野辺 薫
「東北文學」1943(昭和18)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页
そんなのに負けてなるものかという母の気持であろうから、やがて喜古の家からも、母の手で軍需紙が納まることになるであろう。それこそ安心して征けるという意味の言葉でも、或いは母はききたいのではあるまいかと、ふと思いつくのであったがそれを口にするのも何となく気恥しく、ついさりげない言葉になった。
「だがなお母さ、あんまり無理はしねえことだでなん。」
「ん、おらは大丈夫よ。兄ちゃこそ気をつけろや。」
パルプを解く槽のあたりに眼をやると、そこに叢るとうに盛りを過ぎて萎えしぼんだ黄水仙が、少し出て来た風に重く揺れている。
「何てたって大戦争だでなん、今度こそ俺の帰ることなんど、決して当てにしねえように……惣吉にしろ、よしの繁治君にしろ……お母さとしてはそこまでのことをなん……生活のことはよしがうまくやるべから……どうだことが起ってもなん、いいかや、お母さ?」
わかってるともと、おときの眼はやはり真直ぐに向けられていた。
「これからどうだことがあったって……兄ちゃの前だがな、三つ骨が並んで来たって、お母さは決して動顛しねえでな。」
「んなら俺も安心した。」
言えなかった言葉がはじめてすらすらと滑り出た――。