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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

」

佐藤はおかみさんが心持をわるくしはせぬかと、絶えずその顔色を窺いながら、じわじわ口説きかけた。

おかみさんは何とも言わない。しかし別に驚いた様子も、困った風もせず、気まりも悪がらず、始終口元に愛嬌をたたえながら、佐藤がまだ何か言いつづけるつもりか知らというような顔をして、男の口の動くのを見ている。

「おかみさん。千代子さんでしたね。」

「ええ。千代子。」

「千代子さん。どうです。いいでしょう。わたしと一ッしょになって見ませんか。奮発して二人で一ト稼かせいで見ようじゃありませんか。戦争も大きな声じゃ言われないが、もう長いことはないッて云う話だし……。」

「ほんとにね、早く片がついてくれなくッちゃ仕様がありません。」

「焼かれない時分何の御商売でした。」

「洗濯屋していたんですよ。御得意も随分あったんですよ。だけど、戦争でだんだん暇になりますし、それに地体お酒がよくなかったしするもんで……。」

「そうですか。旦那はいける方だったんですか。わたしと来たらお酒も煙草も、両方ともカラいけないんですよ。其方なら誰にも負けません。」

「ようございますわねえ。お酒がすきだと、どうしてもそれだけじゃア済まなくなりますからね。