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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

悪いお友達もできるし……今時分こんなお話をしたって仕様がありませんけれど、随分いやな思をさせられた事がありましたわ。」

「お酒に女。そうなると極って勝負事ッて云うやつが付纏って来ますからね。」

「全くですわ。じたい場所柄もよくなかったんですよ。盛場が目と鼻の間でしたし……。」

「お察ししますよ。並大抵の苦労じゃありませんでしたね。」

「ええ。ほんとに、もう。子供がなかったらと、そう思ったこともたびたびでしたわ。」

あたりは汽車の切符を買おうとする人達の行列やら、立退く罹災者の往徠やらでざわついているだけ、却て二人は人目を憚るにも及ばなかったらしい。いきなり佐藤は千代子の手を握ると、千代子は別に引張られたわけでもないのに、自分から佐藤の膝の上に身を寄せかけた。

休戦になると、それを遅しと待っていたように、何処の町々にも大抵停車場の附近を重にしてさまざまな露店が出はじめた。

佐藤と千代子の二人は省線市川駅の前通、戦争中早く取払になっていた商店の跡の空地に、おでん屋の屋台を据えた。土地の人達にも前々から知合があったので、佐藤の店はごたごた葭簀をつらねた露店の中でも、最も駅の出入口に近く、人足の一番寄りやすい一等の場所を占めていた。