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よねんかん

四年間

山本 周五郎

「新青年」博文館、1946(昭和21)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,135 字 · 36 页

青空文庫

恐怖と絶望のなかで、彼はそのことだけは固くそう決心していた。

茅ヶ崎の家へ帰ると昌子が出迎えた。顔つきは少し蒼ざめてみえるが、唇にはいつものさわやかな微笑をうかべていた。

「久しぶりで会う友達ばかりなので、次から次とまわらされてすっかり疲れた」

彼は研究所の書斎へはいりながら云いわけのようにそう云った、

「……もっと早く帰るはずだったんだけれどね、みんな呑み手がそろっているもんだから」

「お紅茶でもお淹れいたしましょうか」

昌子は彼の脱いだ上着を壁に掛け、後ろからガウンを着せながらそう云った。

「……お隣りの村田さんからレモンをいただいてございますの、噎せそうなくらいよく匂う良いレモンでございますわ」

「じゃあ橋本君といっしょにいただこう、いま研究室にいるの?」

「いいえこのあいだから寝ておりますの、はじめは風邪だと思っていたのですけれど、お医者さまはチフスの疑いがあるとおっしゃったり、今日はまたなんですか、粟粒結核ではないかなんて……」

「粟粒結核」信三はぎくっとしたように振り返った、

「……それはいけないな、ちょっと容子をみてこよう」

そしてガウンのまま母屋のほうへ出ていった。