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じごくふうけい

地獄風景

江戸川 乱歩

「江戸川乱歩全集付録冊子 探偵趣味」平凡社、1931(昭和6)年5月10日~7月10日、9月10日~1932(昭和7)年1月8日、3月10日<br>メリー・ゴー・ラウンド以下「江戸川乱歩全集 第十一巻」平凡社、1932(昭和7)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 53,774 字 · 108 页

青空文庫

ハタハタ、ハタハタ、足音ばかりだ。

「大野さーん」

耐まり兼ねて思わず大声を上げた。

しかし、相手はやっぱり答えない。黙々として走っている。

「オヤ変だぞ。アア、ひょっとしたら……」

ギョクンと心臓が喉の辺まで飛上った。あの足音の主こそ、若しや恐ろしい人殺しではあるまいか。そうだ。きっとそうだ。こんなに呼んでも答えぬのは、それに極まっている。

折枝は怖さに一層足を早めた。喉がひからびて、心臓が破れ相に鼓動する。

行手に急な曲り角があった。折枝はもう無我夢中でその角を曲った。

と同時に、五六間向うの同じ様な曲り角を、ヒョイと飛び出した奴がある。

「アレエ……」

我にもあらず、業々しい悲鳴を上げて、折枝はその場に立ちすくんだ。

先方も驚いたらしい。ハッと思う間に、忽ち姿を隠してしまった。

確に大野さんではなかった。大野さんが折枝の姿を見て逃出す筈はないからだ。では今のは何者であったか。残念ながら、折枝はそれを見極めるひまがなかった。咄嗟の場合着衣の色さえ気附かなかった。だが、女ではない。ズボンをはいていた。そして、非常に小柄な男であった。恐らく女の折枝よりも背が低かった。