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じごくふうけい

地獄風景

江戸川 乱歩

「江戸川乱歩全集付録冊子 探偵趣味」平凡社、1931(昭和6)年5月10日~7月10日、9月10日~1932(昭和7)年1月8日、3月10日<br>メリー・ゴー・ラウンド以下「江戸川乱歩全集 第十一巻」平凡社、1932(昭和7)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 53,774 字 · 108 页

青空文庫

彼女は今、地獄の苛責に泣き叫ぶ一人の亡者であった。だが、亡者にしては、何とふてぶてしく張り切った肉塊であったろう。

池のこちら側には、やはり半裸体の、まるで地獄の青鬼みたいな湯本譲次が立はだかって、傍らの小箱から、ドキドキ光る短剣を取出すと、それを右手にかざして、向側の裸女の肉塊めがけて投げつける姿勢だ。

アア、又しても、いまわしい人殺しが行われ様としているのか。

イヤイヤそうではない。湯本不良青年は、いつどこで覚えたのか、短剣投げの奇術が得意であった。我が恋人を的にして、その危険極まる奇術を行うのが、彼の夜毎のこよなき楽しみであったのだ。

的に立つ麗子は麗子で、恋人の投げる白刄の前に、全身を曝して、今にも我身にそれが突き刺さりはしないかと、ドキドキ胸躍らせる快感に、酔いしれているのだ。

譲次の投げる短剣は、青白い電光を受けて、不思議な稲妻ときらめき乍ら、空を飛んで、次から次へと、麗子の背後の戸板に突き刺さって行った。突き刺さっては生あるものの如く、血に餓えて、ブルル、ブルルと身震いした。

どの短剣も麗子の頬から、頭から、腕から、腿から、一分とは離れぬきわどい箇所へ、機械の如く正確に命中した。