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じごくふうけい
地獄風景
江戸川 乱歩
「江戸川乱歩全集付録冊子 探偵趣味」平凡社、1931(昭和6)年5月10日~7月10日、9月10日~1932(昭和7)年1月8日、3月10日<br>メリー・ゴー・ラウンド以下「江戸川乱歩全集 第十一巻」平凡社、1932(昭和7)年4月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 53,774 字 · 108 页
まさか。夢だろう。だが……
「あなた気がつきましたか」
治良右衛門が、ソッと刑事の腰をつついて囁いた。
「エエ」
木島刑事は、猛獣がする様な警戒の目色で答えた。
「動いたでしょう」
「動いた。あなたの仕掛けたカラクリですか」
「イイエ、ちっとも知らないのです。あの胃袋は作りつけの張りボテなんです。動く筈がない」
「では若しや」
刑事はこの奇怪事を非常に現実的に解釈した。それで、彼が先に立って、暗闇の胃袋へと近づいて行った。
「こんなものが消化作用を起す筈はない」
刑事は塗料でネチャネチャする胃袋の壁をコツコツ叩いて云った。
「誰かいるんだ。人間が隠れて動かしているんだ。オイ、誰だ。出給え」
刑事は何かを直覚して、勢こんで、胃袋の裏側へ突進した。
「ワッ」
という悲鳴が爆発した。そして、何とも云えぬ醜怪な生きものが、刑事の腕をすり抜けて、鯨の腹綿の作る迷路の影へ逃込んで行った。
「喜多川さん、そっちへ廻って下さい。僕がうしろから追い出すから」
木島はまるで兎でも捉える様に叫んで、腹綿の中へ飛込んで行った。
暗闇の中に、バリバリと腹綿の破れる音、逃げ廻る怪人物の、追っかける刑事の、入り乱れた足音、息遣い。