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つぼ
壺
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页
のだが、ついに待ちきれなくなり、がまんの尽きるときが来た。六月はじめの或る日、……かれは又右衛門が庭へ出て来たのをみかけると、心をきめた顔色で側へあゆみ寄り、「おねがいがございます」と思いきってきりだした。「こちらへお供をしてまいりましてから半年も過ぎました、どうぞ刀法のお手びきをおたのみ申したいと存じます」「そうであったな……」又右衛門は見向きもせずに、「おれもそれは考えていたところだ、しかし七郎次、おまえはもうりっぱなうでをもっている、それ以上はおれにも手びきをすることはない、……あとは道の極意を伝授するだけだ」「ご伝授がねがえますか」七郎次は思わずせきこんだ、「極意のご伝授がねがえるのですか」又右衛門はあらぬ方を見やったままうんと頷き、こちらへ来いと云ってあるきだした。庭の裏木戸をぬけて外へ出る、広い草地のなかへ二三十歩はいってゆくと、立ち止って手をあげ、草地のまん中に立っている高い一本杉を指さした。「あれに杉木がある」「……はい」「日が出て日が沈むまで、杉木はその影を地におとす、わかるな」「わかります」「その影の移る