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つぼ
壺
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页
ように、……かれはそこへ両手をつき、額をすりつけた。「あやまりました、旦那さま、……夢でございます、みんな悪い夢でございました」殆んど噎びあげながら七郎次はそう云った、「今こそ瘤七という綽名が思い当ります、わたくしはおろか者でございました……」その言葉の真実をたしかめるように、又右衛門はやや暫く黙っていた、それから再び元の穏やかなくちぶりで云った、「人間のねうちは身分によって定まるものではない、各自その生きる道に奉ずる心、おのれのためではなく生きる道のために、身心をあげて奉る心、その心が人間のねうちを決定するのだ、百姓は米を作るが、自分では多く稗麦を喰べている、自分では喰べないのになぜ艱難を凌いで米を作るか、……それは米を作ることが百姓の道だからだ、ちょうど武士がおのれを滅して御しゅくんのため国のために奉ずるように、我欲を去って世人のために道をまもる、栄達も名利もかえりみず、父祖代々その道を守りとおして来た百姓の生き方こそ、まことに、厳粛というべきであろう、七郎次……ここをよくよく考えなくてはなるまいぞ」「わたくし紀州へ帰ります」