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なつめせんせいのついおく
夏目先生の追憶
和辻 哲郎
「新小説」1917(大正6)年1月臨時号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,272 字 · 21 页
また恋愛のある所に必ず幸福な心の融合があるという事は可能であろうか。人と人との間には掛ける橋がないという言葉は真実ではなかろうか。
『三四郎』『それから』『門』『彼岸過迄』『行人』などが右の題目の開展であることは明らかである。『三四郎』に芽ざして『それから』に極度まで高まった恋愛の不可抗の力は、ついに正義を押し倒した。作者はこの事を可能ならしめるために享楽主義者を主人公とした。しかし不可抗の力の強さをきわ立たしめるためには、あらゆる同情を不義の恋に落ちて行く男女の上に注ぐ事をも辞しなかった。『門』はその解決である。男女の相愛はこれほど深まることができる。しかし押し倒された正義は執拗に愛する者の胸を噛んでいる。完全に相愛する男女の生活にも惨ましい寂しさがある。そうしてついに正義は蛇のように謀反者の喉に巻きつく。
『彼岸過迄』においては愛を双方で認めながら心も体も近づく事のできない宿命的な悲劇が描かれている。さらに『行人』は夫婦の間でどうしても心を触れ合わせることのできない愛の悲劇を描いている。愛はついに絶望である。
この問題についても『道草』は一つの活路を暗示する。