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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

思わず半蔵はハッとした。でも、彼は自分ながら不思議なくらいおちついたこころもちに帰って、まるで他人のことのように自分のうわさ話を聞きながら、床屋の亭主がするままに身を任せていた。親譲りの大きく肉厚な本陣鼻から、耳の掃除までしてもらった。

何げなく半蔵は床屋を出た。上手な亭主が丁寧に逆剃りまでしてくれてほとんどその剃刀を感じなかったほどの仕事を味わったあとで、いささか頬は冷たいというふうに。

その足で半蔵は左衛門町の二階へ引き返して行った。静かな西向きの下窓がそこに彼を待っている。そこは彼が一夏の間、慣れない東京の暑さに苦しんで、よく涼しい風を入れに行ったところだ。部屋は南に開けて、その外が町の見える縁側になっているが、きれい好きな宿のかみさんは彼の入檻中に障子を張り替えて置いてある。上京以来すでに半年あまりも寝起きをして見れば、亭主多吉の好みで壁の上に掛けて置く小額までが彼には親しみのあるものとなっている。

過ぐる五日の暗さ。彼は部屋に戻っていろいろと片づけ物なぞしながら、檻房の方に孤坐した時の自分のこころもちを思いかえした。彼の行為が罪に問われようとして東京裁判所の役人の前に立たせられた時、彼のわずかに申し立てたのは、かねて耶蘇教の蔓延を憂い、そのための献言も仕りたい所存であったところ、たまたま御通輦