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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
を拝して憂国の情が一時に胸に差し迫ったということであった。ちょうど所持の扇子に自作の和歌一首しるしつけて罷り在ったから、御先乗とのみ心得た第一のお車をめがけて直ちにその扇子をささげたなら、自然と帝のお目にもとまり、国民教化の規準を打ち建てる上に一層の御英断も相立つべきかと心得たということであった。
すくなくもこの国の前途をおのが狭い胸中に心配するところから、彼もこんな行為に出た。ただただそれが頑な心のあらわれのように見られることはいかにも残念であるとするのが、彼の包み隠しのないところである。開国以前のものは皆、一面に西洋を受けいれながら、一面には西洋と戦った。不幸にも、この国のものがヨーロッパそのものを静かによく見うるような機会を失ったことは、二度や三度にとどまらない。かく内に動揺して、外を顧みるいとまもないような時に、歴史も異なり風土も異なり言葉も異なる西洋文明の皮相を模倣するのみで、それと戦うことをしなかったら、末ははたしてどうなろう。そのことがすでに彼には耐えられなかった。そういう彼とても、ただ漫然と異宗教の蔓延を憂いているというではない。