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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
ただただおまんは、吉左衛門や金兵衛が生前によく語り合ったことを思い出して、半蔵にこの青山の家がやりおおせるか、どうかと危ぶんでいる。
お民を前に置いて、おまんは縫いかけた長襦袢のきれを取り上げながら、また話しつづけた。目のさめるような京染めの紅絹の色は、これから嫁いで行こうとする子に着せるものにふさわしい。
「そう言えば、お民、半蔵が吾家の地所や竹藪を伏見屋へ譲ったげなが、お前もお聞きかい。」
おまんの言う地所の譲り渡しとは、旧本陣屋敷裏の地続きにあたる竹藪の一部と、青山家所有のある屋敷地二畝六歩とを隣家の伊之助に売却したのをさす。藪五両、地所二十五両である。その時の親戚請人には栄吉、保証人は峠の旧組頭平兵衛である。相変わらず半蔵のもとへ手伝いに通って来る清助からおまんはくわしいことを聞き知った。それがお粂の嫁入りじたくの料に当てられるであろうことは、おまんにもお民にも想像がつく。
「たぶん、こんなことになるだろうとは、わたしも思っていたよ。」とまたおまんは言葉をついで、「そりゃ、本陣から娘を送り出すのに、七通りの晴衣もそろえてやれないようなことじゃ、お粂だって肩身が狭かろうからね。