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おおえどおうごんきょう
大江戸黄金狂
野村 胡堂
「新青年」1939(昭和14)年11月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页
それほどお染の傍を離れるのが嫌なら、一緒につれ立って、敵討の旅に出るがよい。来る八月十五日の日没頃、其方のためには不倶戴天の敵山浦丈太郎は、箱根の間道太閤の辻堂の前に立って居ることになっている。夢々疑うまいぞ。この折を取逃しては、親の敵を討つ望はまずあるまい。穴賢、人に語るな。
人を嘗めたような調子ですが、ひどく真実性があります。これを読んでいるうちに、万田龍之助は、背中へ一斛の冷水をブッかけられたような心持になりました。
僅か三年前の出来事で、龍之助も悉く事の経緯を知って居ります。父親九郎兵衛は同役山浦丈太郎に殺されたには違いありませんが、非は悉く父親九郎兵衛にあって、斬った山浦丈太郎には、何んの怨む筋もありません。関所役人の端くれに連なりながら、関所手形の贋物を造り、莫大な不義の金を積んだ父親の悪事は、生きているうちに罪に問われると、礫刑になっても足らなかったでしょう。それを斬った山浦丈太郎に、敵名乗をあげる顔は、万田龍之助には無かったのです。
だが、敵の所在が斯う判然わかると、人の子として、萬田龍之助は凝っとして居るわけに行きません。
「よし、敵山浦丈太郎を斬って、父親と一緒に、八寒地獄へ真っ逆様に落ち込んでやろう」