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おおえどおうごんきょう

大江戸黄金狂

野村 胡堂

「新青年」1939(昭和14)年11月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页

青空文庫

「山浦さん、三年越、私は忘れ兼ねました。たったひと言」

「お滝」

山浦丈太郎の手は、お滝の肩を引寄せて居たのです。お滝の思いの外の善良さが判ると、丈太郎の心の中に、関所役人時代の誼みが蘇み返えったのでしょう。

「嬉しい、山浦さん」

二人の激情には構わず、

「いいか、四本目だぞ、こいつは少し固いや」

海道丸の声と共に、ひとしきり又小石の雨が降りますが、一瞬の後に迫る死も忘れて、丈太郎とお滝は夢心地に顔を見合せて居りました。

「入口の扉の側が宜いぞッ」

空善は天来の啓示にハッと気が付くと、男女二人の陶酔を破って、グイグイと岩の扉の下に押やりました。

同時に、ガラガラドシンと天柱地軸も崩るる音、立昇る土煙りに、暫くは何が何やら解りませんが、間もなく、山浦丈太郎とお滝は、自分達だけは無事だった事に気が付きました。

「御坊、御坊」

「此処じゃ、手を、手を貸して下され」

見ると、岩と岩との間に挟まって、雲水空善は身動きもならぬ有様です。幸い天井が落ちたので、中天の月が明る過ぎるほどよく照して居ります。

「御坊、お怪我は?」

「少し重過ぎた、腰が砕けてしもうたらしい」

振り仰ぐ青い顔、淋しい笑はコビリ付いたまま、死の色が次第に濃くなり行きます。