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たじゅうとそのいぬ
太十と其犬
長塚 節
「ホトトギス」1910(明治43)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,769 字 · 32 页
味噌汁をかけてやったらぴしゃぴしゃと甞めた。暫くすると小さいながら尾を動かしてちょろちょろと駈け歩いた。お石が村を立ってから犬は太十の手に飼われた。太十は従来農家の附属物たる馬と※(「奚+隹」、第3水準1-93-66)との外には動物は嫌いであった。猫も二三度飼ったけれど皆酷く窶れて鳴声も出せないように成って死んだ。猫がないので鼠は多かった。竹藪をかぶった太十の家は内も一杯煤だらけで昼間も闇い程である。天井がないので真黒な太い梁木が縦横に渡されて見える。乾いた西風の烈しい時は其煤がはらはらと落ちる。鼠のためには屈竟な住居である。それでも春から秋の間は蛇が梁木を渡るので鼠が比較的少ない。蛇は時とすると煤けた屋根裏に白い体を現わして鼠を狙って居ることがある。そうした後には鼠は四五日ひっそりする。収穫季の終が来て蛇が閉塞して畢うと鼠は蕎麦や籾の俵を食い破る。それでも猫は飼わなかった。太十が犬だけは自分で世話をした。壊れた箱へ藁しびを入れてそれを囲炉裏の側へ置いてやった。子犬はそれへくるまって寝た。霜の白い朝彼は起きて屹度犬の箱を覗く。犬は小さいながら成長した。