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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

04 枕の妖異

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,545 字 · 23 页

青空文庫

身体の重量感がスーッと消えて、其ままゆらゆらと天上する心持ち、部屋の空気が薄紫に淀んだと思ったのも束の間で、やがて真珠色の翼の上に、妻木右太之進はふんわりと坐って居りました。

大地を揺り上げるような――その癖得も言われぬ快適な音楽が、何処からともなく耳に入りました。今の言葉で言えば、それはスクリアビンの「法悦の詩」にも比ぶべきものだったでしょう。妻木右太之進は、全身の官能が動員されて、一種不安な――が快適な焦燥を感じ始めると、何処からともなく現われた一人の女性が、右太之進の右手に、ほのかな裾風を起してふわりと坐ったのです。

「あ、お綾どの」

それは、何年来こがれ抜いた、お綾でなくて誰であるものでしょう。

「右太之進様」

右太之進の聞いた声は、想像を絶した魅惑の音色でした。

四方の空気がほんのりと桃色になると、お綾の頬が右太之進の頬に近づき、お綾の体重が、右太之進の膝の上に、羽のように軽かったのです。

艶めかしくも清らかな恋の遊戯は、際限もなく続きました。

そして右太之進がフト眼を覚ました時は、窓からは暁の色が忍び入って、枕の中の銀の棒は、もうすっかり冷たくなって居りました。