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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

04 枕の妖異

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,545 字 · 23 页

青空文庫

五

五

一方、妻木右太之進から、彦四郎貞宗の一腰を申受けた秋月九十郎は、時を移さず、あらゆる家財を売って金に代え、それに貯えの金を加えて、辛くも三百両の大金を纏めました。

その三百両と彦四郎貞宗の一刀を手づるを求めて贈った先は、何んと時の老中田沼主殿頭意次の許だったのです。

田沼父子が、将軍家治を挟んで、どんなに権力を揮ったか、そして、どんなに賄賂を貪ったかは歴史上の問題で、此処に詳説する迄もありません。

三百両の金は、素より老中田沼意次の眼にとまる筈は無く、それは取次の用人共の懐を肥やしたに過ぎないのですが、彦四郎貞宗の名刀だけは、無事に貪婪な関所を通って田沼主殿頭の目に留まりました。

早速秋月九十郎の引見となり、そして倅山城守意知を通じて、若年寄の耳に吹込まれ、翌月は早くも、秋月九十郎二百石に加増、御腰物方に登用され、その翌年の暮にはもう御使番衆、布衣千石高と出世しておりました。

たった一と腰の彦四郎貞宗が、此飛躍的な出世を保証したわけではありません。秋月九十郎の優れた才智と、逞しくはあるが人好きのする風貌と、そして田沼意次が稀代の得意であったと言われる、決して人と争わぬ、柔和な態度を模倣したことが、秋月九十郎の出世の階段を駈け足で昇らせた原因だったのでしょう。