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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

04 枕の妖異

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,545 字 · 23 页

青空文庫

六

中に死んでしまったのです。

六

妻木右太之進の場合は、夢から夢への、果てしも無い情痴の生活でした。

昼も夜も無い暮し――いや、夜を昼にした暮しと言った方が宜いでしょう。うつらうつらと夢見るように昼が過ぎると、妻木右太之進の身の情火をかき立てる、夜の夢の世界が開けるのです。

清らかな夜の物、快適な食事、ほろ酔い、そして奇瑞の枕の、銀の棒が温められました。

それに頭を載せて眼をつぶると、幽雅な香気が部屋一パイにこめて、リヒャルト・シュトラウスの「サロメ」の、七つのヴェールにも似た、大地の底からゆり動かすような音楽が、何処からともなく響いて来るのです。

妻木右太之進の情熱は、斯うして毎晩かき立てられました。夢に現われるお綾の姿は、時には武家風の娘になり、奥方になり、御守殿風の椎茸髱になり、或は入山形に二つ星の花魁になり、町家の娘になり――妻木右太之進のその時その時の好みによって、あらゆる姿に変化して出現するのでした。

歓楽の夢は、夜毎に変りました。が現実の世界は、妻木右太之進を、恐ろしい没落へと引摺って行ったのもまた已むを得ないことだったのです。

勤め向の不首尾により、妻木右太之進三月目には御役御免になり、三年目にはもう扶禄を召し放されて、一介の浪人になって居りました。