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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

04 枕の妖異

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,545 字 · 23 页

青空文庫

七

賄賂を出した者も出さない者も、田沼に引立てられた者も退けられた者も、田沼の悪の代弁者と思われた秋月九十郎に対しては、睚を決し、拳を握り、その肉をさえ喰わんとひしめき合ったのです。

秋月九十郎は命辛々逃げ廻りました。そして、一つ一つ物を失い、一枚一枚身の皮を剥ぎました。

今は早や乞食も同様でした。それでも未練らしく錆刀を一本抱いて、ついには野垂死ぬ外はない運命を、小意地悪いほど明瞭に意識し乍ら、秋月九十郎は、その夜の宿を両国橋の下に求める外はありませんでした。

九年前、妻木右太之進と、お綾を争って、ツイ鼻の先の浜町河岸に切結んだ時と同じように、それは桜の花片のハラハラと散る朧夜でした。

七

「誰だ」

橋の下には、自分より先にもぐり込んで、筵を着て丸くなって居る者が一人あります。

「――――」

筵をハネ除けて起上ったのは、まだ若い乞食でした。朧の月が橋の下の浅ましい世界を夢の国のように照し出しました。

「おッ、貴公は若しや?」

「秋月氏では無いか」

「妻木氏か」

曾ての恋敵、秋月九十郎と妻木右太之進は、思わぬところで、十年目の顔を合せたのです。

「これは何うした事だ」