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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

04 枕の妖異

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,545 字 · 23 页

青空文庫

僅か五十俵の痩御家人が、禄に離れ屋敷を追われると、あとはもう眼も当てられません。あらゆる持ち物を売り尽して、一年一年と没落の途を辿り、六年目には、奇瑞の枕たった一つを抱いて、明神下の棟割長屋に、見る影もない姿を横える有様でした。

妻木右太之進は、それでもまだ眼が覚めなかったのです。残る一枚の袷と、一口の刀を売って、最後の糧を手に入れると、相も変らず奇瑞の枕を抱いて、歓楽の夢を追う愚劣無残の彼の姿だったのです。

一方田沼父子の失脚と共に、秋月九十郎にも恐ろしい運命が訪れました。

田沼父子の手先となって、その権勢利慾を募らせ、賄賂を納めて田沼父子の懐を肥し乍ら、死物狂いに自分の栄達を図った秋月九十郎も、田沼主殿頭の没落と共に、怨嗟と攻撃の矢を八方から受けて、三月経たぬうちにその役を追われ、主殿頭の死んだ頃は、その高禄も屋敷も、あらゆる権勢も剥ぎ奪られ、野良犬のように江戸の町に投げ出されて居りました。

秋月九十郎が切腹にも遠島にもならず、命目出度く浪人になったのを、時の世間が不思議に思った程です。だが、あらゆる人々は後ろ指を差し、その影に唾し、巷の悪童は遠方から礫を飛ばしました。