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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

04 枕の妖異

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,545 字 · 23 页

青空文庫

「貴公こそ」

「いや、田沼殿の引で日の出の勢と聴いた秋月九十郎殿が、その扮は何んとした事だ」

「面目ないが、今となっては権勢も栄華も夢だ、――私は力と才智を頼り過ぎたのだよ」

秋月九十郎はボロボロの袷の襟をかき合せて、素直に顔を伏せるのです。

「この妻木右太之進は、枕の奇瑞に溺れて、夢から夢の十年を過してしまったが――」

「で、この先をどうする積りだ」

「何んにも考えは無い、――が一つだけ貴公に教え度いことがある」

「?」

「貴公はその後のお綾殿の消息を知らぬか」

「いや権勢に溺れて、お綾殿を思い出す遑も無かったよ」

「それは羨ましい――この俺は、お綾殿の美しさの崩れて行くのを十年間此眼で見て来たのだ」

「――――」

「お綾殿の実家の伊奈家も没落して、最早帰る家もなく、お綾殿はツイ其処――柳橋の裏店で、細々と煎餅を焼いて売って居るのだよ」

「それは本当か」

「何んで嘘を言おう――行って見るが宜い、貧苦と邪悪な心にやつれ果てたお綾殿は、最早昔の輝くお綾殿では無い。トゲトゲしい顔、ガサガサの声、ひがんだ眼――人間はあんなにも変るものか――それに比べると、落ぶれ果てても貴公や俺はまだ人間らしい」