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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

04 枕の妖異

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,545 字 · 23 页

青空文庫

二人はあらゆる手を尽して、お綾の身に着いた品を手に入れて、お舎利様のように拝んだり、お綾の書いたものを猟って、涙を流して抱きしめたりしました。そして伊奈長次郎の屋敷の召仕たちは、飛んだ心付けにありついて、ほくほくしていることも決して短い間ではありません。

二人から申入れた正式の縁談に対しては、お綾の父親の伊奈長次郎は何んの返事も与えず、二人からそっと送った、燃えつくような恋文に対して、当のお綾は思わせ振りな返事を、十通に一通、五本に一本位はくれたりしたのです。

秋月九十郎と妻木右太之進が、燃えに燃えたことは想像に難くありません。そして最後に、お綾の召仕って居る端女の口から、お綾が「お二人のうち、優れた方に――」と漏らしたことが伝わったのです。

二十五歳の秋月九十郎と、二十七歳の妻木右太之進が、この二人のうちの一人を決定するために、本所の友人山ノ井金之助の宅で落ち合った帰り、つまらぬ口争いが嵩じた挙句、誘い誘われて、浜町河岸に来たのはまことに運命的な成行と言う外はありません。

「行くぞ」

「来いッ」

必死の二人は、爪先捜りにジリジリ近づきます。

朧の月は黒雲の中に入って、サッと渡る夜風、何処から散ったか、桜の花片がハラハラと飛んで、二人の刃へ肩へ鬢へと降りかかるのでした。