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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

07 観音様の頬

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,954 字 · 24 页

青空文庫

七

七

「聴いてくれ、――いや聴いて下さいよ、おっ母さん。こういうわけだ」

自分の家へ無理に母娘を連れて来た綾麿は、厭がる二人を、天狗長兵衛彫むところの観音像の前に並べて、こう口を切るのでした。

「如何にも私は、この観音様の美しさに溺れた。それは併し、彫物師に生れ付いた私の心持の動きに従っただけのことで、まさか観音様を女房にする気になったわけじゃ無い。近頃プッツリ五つ目へ行かなくなったことは、香折もよく知っている通りだ」

「――――」

母娘は固唾を呑みました。灯の前の観音像は、大川の水に洗われて、浅ましくも禿げちょろになり、金箔の剥げた下からは、見事な檜材の木目が見えているのです。

「観音様が焼かれると聞いて、思わず飛出したが、――考えて見るとそれも余計な事だったかも知れない。御仏に宏大無辺な神通力があるならば、放って置いてもこの法難は避けられるだろうし、若し又焼かれ砕かれるのも一つの約束事ならば、それは人間の力では救いようのない因果だ」

「――――」

「南都の七堂伽藍を焼き尽した平重衡の暴挙にも、大きい眼で見れば何んかの意味があるだろう。蠑螺堂の百観音の焼かれるのも、焼かれる因縁があってのことかも知れない」