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じょせい
女婿
佐々木 邦
「主婦之友」1925(大正14)年9月~11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,954 字 · 43 页
「妙子さん、あなたお苦しゅうございましょうね?」
「…………」
「もう医者が参りましょう」
細君は良人の奴隷ではない。御機嫌次第では良人の言葉に応答しなくても宜い。殊に自分が何か屈託があって良人が小煩い時には然う一々返辞をするものでない。若しそれがお気に召さなくて、
「おい、返辞をしろ! お前は耳がないのか?」
と極めつけられたら、
「あなたは随分勝手なお方ね。私の欲しいものを二つ返辞で買って下すったことがございますの?」
と遣り返す資格がある。妙子さんはもう細君だから、この作法の実行を心掛けていたのである。然るに分りの悪い清之介君は、
「妙子さん、あなたお白湯は召し上りませんの?」
と飽くまであなたさまに崇め奉っている。
折から俥が玄関に止まって、婆やと女中が医者を案内して来た。待ち侘びていた清之介君は慇懃に迎えて、座蒲団を薦め、早速発病の次第を説明し始めた。先生は、
「はゝあ。はゝあ」
と頷きながら聴いている。
「はゝあ、成程、結婚式で……それはお芽出度うございました」
と軽くお辞儀をして花嫁の方へ振り向き、
「……はゝあ、そのまゝお休みに……披露式へはお出にならずに……はゝあ、成程、瀬戸際まで漕ぎつけて、それは少々お気の毒でございましたな」