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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

姪を呼んで花を生けるでも琴を弾くでもない。唯お冗舌をするのである。口さえ動かしていれば退屈が凌げる。アメリカの婦人がチュウインガムを噛み日本の娘が酸漿を鳴らすのは或はこの辺の必要を補う為めかも知れない。

針仕事を片付けて長火鉢の側に坐って安子さんは、

「お里や、お前一寸お二階へ行って八千代さんにね、お茶を入れますからいらっしゃいって言って頂戴」

と命じた。

「はあ」

と応じてお里が階段の上り口まで行った時、八千代さんは自分料簡で下りて来た。八千代さんも女だから、独り黙っていれば当然退屈する。しかし二時間かっきりで巻きの切れたところは流石に叔母姪の間柄である。

「学校の御勉強?」

と叔母さんは鉄瓶の胴を撫ぜながら訊いた。

「いゝえ」

と姪は微笑みながら坐った。これは小説を読んでいたという意味である。地方の高等女学校から東京の女子大学へ解放された妙齢の女性は先ず読物の自由から楽しむ。恋愛の自由はもっと修業を積んでからで晩くない。

「私、独りぽっちで退屈しましたの。少し宜いでしょう」

と安子夫人が訴えれば、

「えゝ、お話し致しましょう」

と八千代さんも呑み込みが好い。