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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
「お里もそこへ坐ってお相伴なさい」
と安子夫人はお里を忘れなかった。十六貫あっても女である。黙って三時間も洗濯をしていれば退屈する。
「はあ」
と答えてお里は坐ったが、又直ぐに立つ運命を持っていた。というのは安子夫人がお茶を入れている間に、
「御免下さい」
という女の声が玄関から聞えた。お取次は女中の役である。
「何誰でしょう?」
「さあ。……この頃は能く女の押し売りが来ますから」
といったような目つきを交換しているところへ、
「内藤さんの奥さまでございます」
とお里はイソ/\と注進に及んだ。主婦はナカ/\気むずかしい。面白くない来客を取次ぐと女中の責任になる。
「あらまあ」
と安子さんは躍り上った。これはこれから夕刻まで十二分に退屈が凌げるという狂喜である。主人不在中の女客は殊に歓迎される。尤も、いても二階の書斎へ幽閉してしまうけれど。
「まあ、奥さま!」
と先方も甚だ仰々しい。これも遙々退屈凌ぎの相手を探しに来たのだから、仇に繞り合ったも同様の嬉しさを感じたのである。こゝの家にこゝの奥さんがいるのは当然の話だが、ひょっとして三越へお出かけになってお留守だなぞと言われると、折角の二三日前から念を入れたお支度が小半日かゝったお化粧諸共見す/\無駄になってしまう。