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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

と言った。

「風竹です。数竿蔵夜雨、一径鎖秋風」

と牧野さんは讃を読んでくれた。

「成程、結構です。有難うございました」

と千吉君は大喜びだった。間もなく安子夫人が御挨拶に出て、

「まあ、竹でございますわね」

と念を押した。三人が三人ながら竹ということに一致したのだから、これは竹に相違なかった。

「これぐらいお描けになるとお楽しみでございましょうな」

「真正にお羨ましゅうございます」

と夫婦が口を揃えたのは客人に取って思う壺だった。牧野さんは直ぐさま、

「上手下手は兎に角、道楽としてはこれが一番のようですな。描いている間は所謂無念無想、確かに一種の精神修養ですよ」

と大きく出て、我田引水に取りかゝった。絵の修業はすべての俗事を忘れて頭を休める趣意に最も能く叶うとあった。他の道楽のように近所から厭やがられませんと言ったのは謡曲に当てつけたのだろう。休養にならない上に兎角長い時間を潰して周囲に迷惑をかける道楽とも違うと言ったのは碁将棋のことだった。千吉君は一々御道理と思って、

「成程、然うですとも」

と相槌を打っていた。牧野さんは尚お南宗画の歴史に話を移した後、