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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
「その中にいらっしゃいませんか? 種々と作品を御覧に入れますよ」
と一本釘を打って辞し去った。
「あゝ、痺れが切れた。先輩は何うも気がつまる」
と客人を見送った千吉君はそのまゝ玄関で脛を叩いていた。安子夫人は、
「あなたは不断お行儀が悪いからですわ」
と窘めて、後片付けに客間へ戻った。
「安子や、そのお土産は何だか当てゝ見ようか。カステラだよ。開けて御覧」
「まあ、何ですねえ。そんなことを玄関先で仰有って。存じませんよ」
「カステラだろう?」
と千吉君は入って来た。
「長崎カステラですよ。あなたは鼻丈け鋭敏ね」
と安子夫人は感心した。
千吉君は翌日出勤すると早々会計課へ寄って牧野さんに一応お礼を申上げた。それから米沢君と顔を合せた時、
「君、カステラが来たよ」
と打ち明けた。
「来たかい? 警戒し給えよ」
と米沢君はニヤ/\笑った。
「何故?」
「絵を習えって勧められるよ。僕は実に困った」
「何と言って断ったね?」
「それが甚だ拙かったのさ。きっぱり断れば宜かったのに、多少気のあるようなことを言ったものだから、未だに祟っている」
「今でも勧めるのかい?」
「勧めるというよりは催促だね。