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いかなるほしのもとに

如何なる星の下に

高見 順

「文藝」1939(昭和14)年1月号~1940(昭和15)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,508 字 · 236 页

青空文庫

朝――「だってそうじゃないか。あんな狭い楽屋に二十何人も寝たなら――」

サ――「鰯、そうね、そう言えば、あたしたち踊り子なんて鰯みたようなもんね」

朝――「そうひがみなさんな」

サ――「ひがむわよ」

朝――「しかし、鰯は下手な鯛なんかよりうまいからね。卑下することはないやね」(煙草のやにで黒くなった汚い歯をむき出して、私にニヤリと気味の悪い笑いを投げて)「特に鯛なんかばかり食っていると、鰯が食いたくなる。食ってみると、鰯の方が鯛なんかよりずっとうまい」

サ――「なアに、それ」

朝――「なんでもない。とにかく、鰯と言われて怒るなと言うことさ。時にそんな話をしたら、とみに空腹を覚えてきた」

――それがきっかけで、私たちは釜めしを食べに行った。

場所がかわったのだから、気分を一変させ振いたたせて、私も雅子と言葉をかわそうと思って、雅子が何か座敷の隅にころがっている紙片を拾って膝の上に乗せて、じッと眼をおとしているのに、

「なに、それ、――見せてちょうだい」

と言った。

雅子は黙って微笑して、出した。別に何とも説明しない。言われるままにさし出す何か哀しいおとなしさだった。