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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

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辰弥はサイド・テーブルの上にある品を見ていて、その表情を静かに硬ばらせた。外国製の万年筆とシャープペンシル、腕時計、革表紙の手帳、革製の横に長いがまぐち、上等な麻のハンカチーフ、洋銀にしゃれた模様を彫ったコンパクト、櫛などの脇に、自分の貯金通帳と認印があるのをみつけたのだ。

まさかと、初めは信じられなかった。手をつけてはいけないと云われているので、顔を近づけてよく見ると、住所氏名が自分のものであること、認印も自分の物であることがわかった。

――そうか、これで住所がわかったんだな。

そう思ったとき、抑えがたい怒りと悲しさがこみあげてき、われ知らず振向いて母に問いかけた。

「ここにぼくの貯金通帳があるけれど」と辰弥は云った、「どうしてこれをあにきが持ってたんだろう」

母はあにきを覗きこんだまま、それまでなにか云い続けていた口をぴったりとつぐみ、躯ぜんたいをちぢめて、なにか異常な事がおこるのを待ちでもするように、じっと呼吸をころしていた。

いけなかった、と辰弥はすぐに後悔した。きくまでもなかった、悪いことをした、と彼は思った。

母がとつぜん身をおこして、辰弥のほうへ振向いた。