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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

それも理屈だと云おうとして、河口は慌てて口をつぐんだ。

そこまで亭主に気を使ってくれるんなら、ついでにつんけんするのもやめたらどうだ、とやり返したところが、あたしだって人間だから、たまにはつんけんしたくもなるさ、それとも女はつんけんしてはいけねえっていう法律でもできたのかいってえ挨拶だ、と増田は云った。

「おらあはらが煮えくりかえって、はっ倒してくれようかと思ったがあのあまのこった、長屋じゅうの騒ぎになるからとびだして来た、みてくれ、まだここんとこがどきんどきんと鳴ってるから」

彼は着物の衿をひろげ、黒い毛のみっしり生えた胸をひたひたと叩いた。良江の眼が、増田の胸毛を見て光った。眼球の内部からさっと閃光がはしったようにみえ、そのまま三白眼になった。

「しょうがねえな、女ってものあしょうがねえもんだ」河口は唇を手の甲で拭きながら云った、「笑っちまえば済むこっても、見識だの法律だのって、すぐむずかしく理詰めに持ってゆきたがる、つまり暇をもてあましてるんだ、笑っちまえばそれっきりだから、なんとかこじらしてたのしもうってえわけだ、よし、おれがいってよく話してこよう」