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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
不注意な通行人は口をあけ、六ちゃんのただならぬ顔を見て、いそいで脇へよけてゆく。六ちゃんはそのうしろ姿をいまいましそうな、軽侮の眼で見やりながら、なんてまぬけなやつだ、と呟く。
「なんてやつだ」と六ちゃんは云う、「自分がどこをあるいてるかもわからねえんだからな、いなかもの」
そして、右の肱をあげてブレーキをがらがらと解き、コントローラーをセコンドに入れ、緩み終ったブレーキのハンドルを止めて握ると、左手で速度をあげ、どですか、でん、と進行してゆくのであった。
町内の人たちはもう六ちゃんに興味をもってはいない。六ちゃんはその町の風物の中に溶けこんでいるのだ。六ちゃん自身もかれらには無関心であるし、子供たちがわるくふざけたり、からかったりしても、ちょっと睨むだけで、まったく相手にならなかった。
中通りを三往復すると、六ちゃんはうちへ帰って休み、また三往復しては休みして、終電になる。その日の気分によって終電の時間はまちまちだが、途中で半助の飼い猫のとらに出会うと、電車を停めて抱きあげ、半助のいる「街」まで届けにゆくのであった。
とらは黒ずんだ三毛猫の雄で、すばらしく大きい。