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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
片方が護岸工事で片方が荷揚げを割り当てられ、荷揚げのほうが日当が多いときでも、護岸工事なら人増しができるとなると、二人とも日当にこだわるようなことはなく、どちらも進んで護岸工事のほうを望んだ。
「どうしたんだ」毎朝、集まって来る日雇い人夫に仕事の割当をする、人繰りの若者が、或るときけげんそうに二人を見て云った、「おめえたちいつもくっついてばかりいるが、なにかたくらんでるんじゃあねえか」
二人は黙っていた。
「へたなまねをするなよ」と若者はすごんだ、「賃上げストなんてことでもたくらんでるとすると大きなまちげえだ、すぐに五躰がばらばらになるような事故が降ってくるぜ」
「大きなことをほざく若ぞうだ」
その日の帰り、屋台で一杯ひっかけながら、二人は可笑しさに笑いあった。
「賃上げストだってやがる」と増田が云った、「ピンはねストならやってもいいが、こっちはそれどころじゃあねえや、なあ」
「それどころじゃねえ」と河口が云った、「まったく、そんな暢気な場合じゃあねえさ」
二人がいつもいっしょにいたがるのは、明らかに、賃上げストやピンはねストとは無関係なようであった。――こっちはいまそれどころではないと云う、そんなことよりもっと緊急な、共通の関心事があるのだろうか。