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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
、どですかでん」
電車は古いから、そのままゆけるときもあるが、故障をおこすこともある。故障がおこると六ちゃんは舌打ちをし、電車を停めて運転台からおりる。肩にのせた猫をなだめながら、六ちゃんは電車の周囲をゆっくり点検してまわり、仔細ありげな渋い顔つきで、車躰を叩いたり、下を覗いてエンジンの連動部を見たり、シャフトの受け軸を足で蹴ったりし、それから空のほうを見あげて、架線とポールとの接触をたしかめたりする。
これらの動作はおどろくほど写実的で、初めて見る者には、それが単に空想の所産にすぎない、などとは信じられないに相違ない。点検してまわるときに描く長方形の各辺の長さは、そこに車躰があるという現実的な立体感を与えるうえに、どこかを叩いたり、足で蹴ったりするときには、その音が聞えるようなリアリティをもっているからだ。
「整備のやつら、みてやがれ」六ちゃんは呟く、「こいつがいくら古いからって、整備をずるけてもいいっていう法はねえ、入庫したらとっちめてやるからな、みてやがれ」
六ちゃんは運転台へ戻り、電車を発車させる。
「さあ、スピードをあげるぞ」六ちゃんは肩の猫に云う、「どですかでん、どですかでん」