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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
――どちらにもせよ、父親は各種の「門」と、その風格や美感について語り、子供は辛抱づよく相槌を打ち、感動して唸り、熱心に同意したりした。
食事のために炊事をすることは殆んどない。寒い季節には湯を沸かすが、食事は残飯をよりわけ、それぞれの丼に移して冷たいまま喰べる。
「冷食は健康のためなんだな」と父親はしばしば云う、「犬に例をとってみても、ブルジョワに飼われてるやつは大事にされて、却って躯が弱くなってしまう。ところが拾い食いをして地面の上で寝るようなのら犬はさ、虫歯もなければ胃弱にもならないだろう」
「ほんとだ、うん、ほんとだ」
「生物はほんらい冷食していたんだな、――これはポーク・カツらしい、きみ喰べるか」
「いいよ、喰べなよ」と子供は首を振る、「ぼくのほうにもあるんだ」
父親はポーク・カツレツの切れっ端を喰べ、暖衣温食が、いかに人間の肉躰を弱め、非力多病にしたか、ということ、それに反して、冷食と戸外生活が、どんなに自然であり健康に役立つか、という理論をくりひろげるのであった。
つめたい食事と戸外生活、それが人間のもっとも自然で、健康なありかただと主張しながら、同時にかれらの空想上の家は、空想の中で幾たびとなく建てたり改築されたりしながら、しだいに豪壮な邸宅となっていった。