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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「きみ、やったね」島さんは彼に向って、にっと笑いながら云った、「なにか大でいりでもあったのかい」
「なんのことです」
「隠すなよ、ゆうべおまわりが来ただろう」
「知ってるんですか」
「ぼくのうちへ先に寄ったんだ、きみも相当な顔らしいな」
「云わないで下さいよ」彼は得意になり、それを隠そうとして頭を掻いた、「ときどきようすをみに来るんです、うるさくってしょうがねえんだが、まあ警察としても役目でしょうからね」
「それほどの顔だとは知らなかった、み直したよ」
「云わないで下さいよ」彼はプロの博奕打ちらしくてれてみせた、「あっしなんざ、まだほんのかけだしなんだから」
徳さんはこの話を、知っている人たちみんなに語った。島さんにとんだところを見られちゃってね、とか、下っ端ならこんなことはないんだが、とか。おれが幹部になるってことを警察ではもう勘づいてるらしい、などとさえ云うのであった。
その徳さんが結婚したのだ。彼は或る夜、結婚したというその若い女を伴れて、近所の家をずっとまわった。
「こんど女房を貰いましてね」と彼はその妻を紹介した、「としは十八、名めえはくに子ってえんです、どうかよろしく」