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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

彼はこれを「ジョン・バリモアズ・プロフィル」と自称し、酔っているときは、妻やかつ子にまでそれを見せようとしきりに横向きのポーズをとるのであった。

「ぼくの鼻をみたまえ」と京太は飲み相手に云う、「これはもはや骨相学や人躰解剖学の問題ではなく、美学の対象そのものなんだよ」

顔面神経痙攣という持病のある島さんが、この「街」へ移って来てからまもなく、二人はかなり親しいつきあいをするようになったが、或るとき京太が自分の鼻について解説したところ、島さんはにやっと敏速に笑って反問した。

「びがくねえ」島さんは感心したように云い、自分の鼻を指さしてきいた、「つまり鼻学というわけだね、病理的鼻学か、わるくはないな」

容貌に自信のある者に向って、容貌に関する皮肉を云ってはならない。島さんのは皮肉にもならないじぐちにすぎなかったが、京太は感情をそこねたようで、それからは島さんとあまり飲まないようになった。

「本当にいやな天気だね」とおたねが或るとき云った、「頭の芯までかびが生えそうだよ」

梅雨が長びいて、古畳に青かびの生えるようなうっとうしい日が続いていた。おたねはかつ子と二人で造花づくりの内職をしてい、京太は独りで、朝から冷酒を飲んでいたが、妻のさもくさくさしたような言葉を聞くと、急にまじめな顔つきで問い返した。