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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
この事件は一部の新聞に発表されたが、ごく短い記事であったし、かつ子が妊娠していたことや、中絶手段がとられたことなどは、発表もされず誰も知らずに済んだ。
岡部少年の治療費はかなえが払ってくれた。彼女は例によって豪奢な姿であらわれ、――そのときかつ子はまだ留置されていたが、――独りで活溌に饒舌りたてた。その舌鋒の的になったのは京太で、彼はかなえのところへも金をねだりに寄ったらしい。
「あたしゃ一と眼で臭いなと思ったわ、一と眼でよ」とかなえは鼻を反らせた、「肝の浅い人間はなんでもすぐ顔に出ちゃうからね、あの人ったら右と左の靴をとっちがえにはいたまま、これから百マイルも走らなきゃならない、っていうような顔をしていたよ、あたしゃ十円一個やらなかった、アディオス、あんなことじゃ生れたばかりの赤んぼだって騙されやしないよ」
かつ子のことには触れたくなかったのか、彼女は饒舌りたいだけ饒舌ると、金を置いて去った。
帰って来たかつ子は、なにごともなかったように、その日からもとどおりこまめにはたらきだした。伯母に対しても平常と変らず、礼も詫びも云わなかったし、伯父がどうしていないのかとききもしなかった。