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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「確かに次官はでたらめを云っているのではなかった」すぐにまた春彦は続けた、「まもなく統制経済になり第二次世界大戦になった、市電のレールまで外していくほど鉄不足になったんで、さすが次官ともなれば先見の明のあるもんだと感心したね、それはいいんだが、敗戦になってさ、こんどは国鉄だろう、それがきみ能率増進か合理化のためか知らないが、継ぎ目なしレールを採用することになった、ぼくのアイディアの盗用さ、戦前の事は戦後政府は責任をとらないたてまえだって云うがね、世界的に知られた日本の大国鉄ともあろうものが、ぼくのような貧しい、弱い、孤立無援の者のアイディアを盗用して、それで良心に恥じないもんかね」
七代目は六法全書をすっかり調べあげてから云うように、極めて慎重、かつ正確な口ぶりで、「特許局へ訴えたらどうか」と云った。ちょろは首を振った。
「特許がとってあればだがね」とちょろは答えて云った、「あの次官が採用してくれそうだったら申請か、いや出願かしようと思ったんだが、次官に云われてみるとそれもむだなような気がしたし、なにより先立つものがなかったからね」
ばんくんの眼が静かに細まり、そのうしろへ彼自身が引込むようにみえた。