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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「珍しい魚だこと」とその中年婦人はいった、「これなんていう魚なの」

ちょろは田舎なまりで、こっちが鮒であり、こっちが鯉であり、どちらも自分がのら仕事の片手間に捕ったものである、と答えた。

中年婦人はめがねを直して、土川春彦を凝視した。

「あなた田舎から来たの」

春彦はそうだと答えた。

「そのなまりは知ってますよ」と中年婦人はいった、「このあいだまで宅にいたお手伝いのよのっていう娘の言葉と似ているもの、あなた宮城県でしょう」

ちょろは唾をのんだ。

「県のこたよう知んねがす」と彼は吃りながら答えた、「親が宮城県のへえちょっと脇であったんねげすけえ、おらもうずっとちっこいときに遠くへやられたもんでねがす、これ買ってくだせえすねが」

中年婦人はめがねのふちをつまんで、なにか珍しい昆虫でもみつけたように、つくづくと春彦の顔を見まもり、あんたの田舎はどこかときいた。

「近県でねがす」とちょろはいって、額をすばやくぬぐった、「このびなもごいもこのとおり捕ったばっかりですねが、このとおりぴんぴん生きてるんでねがすけ、買っておくんながす」

「へんななまりだこと」中年婦人は首を振り、なまりの詮索は諦めたように、また二つの容器をのぞいた、「見たことのある魚だけれど、なんというのかもういちど聞かして下さいな」