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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
そこで相沢は口をつぐみ、自分の背後に人のけはいでも感じたように、息をひそめながら福田くんに囁いた、「この話はよしにしようぜ、ああ、軍師あやうきに近よらずってえからな、きみ」
福田くんはグラスの焼酎を一と息に飲み、いそいで幾たびも頷いてみせた。
「あたしと福田のローマンスはたいへんだったのよ」と相沢家では、ますさんを相手に光子が話していた、「なにしろあたしは女学校二年生で、法律上はまだ未成年者でしょ、どこでクスープしたものか新聞では書きたてるし、そうそ、いつかあんたにその記事みせてあげるわ、あたしみんなクスラップして取ってあるのよ、ほんとにいつか見せてあげるわね、田舎の新聞だってそうばかにはできないような記事よ」
ますさんは内職の手を休みなしに動かしながら、よく赤ちゃんができなかったのねと、感情のかけらもない口ぶりで云った。
「それは女の責任じゃないの」と光子は答えた、「女さえその気になれば、妊娠なんかしないような方法が幾らだってあるわ」
ますさんは突然おどかされでもしたように、ぎくっとして振返った。そうして溺れかかっている者が、つい眼の前に浮き袋のあるのをみつけたときのような表情で、それほんと、ときき返した。