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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
だが、塩山一家の貯金は確実にふえていった。同時に、反対方面からこの一家をめざして、眼に見えない或るものが忍び寄って来たのだ。
ふきが就職して半年のち、郵便局に勤めていたはるが倒れた。初めは風邪をひいただけと思われ、三日ほど休んで勤めに出たが、次に倒れたときは高熱が続き、病院へ伴れていったら結核だと診断された。入院するほうがいいと云われたが、ひとまず家へ帰って寝、入院について家族会議を開いた。
まだ健康保健医が少なかったうえに、患者数とベッド数とのひらきが大きいころで、入院治療の望みは極めて困難であった。
効果のある新薬もぞくぞく売り出されていたが、塩山家の経済では手の届かない高価なものばかりだし、それで決定的に治療するという保証もなかった。
「昔はこの病気のことをな」と父親の慶三が云った、「催促病気といって、若い娘が一度はかかるもんだとされていたんだよ」
慶三が自分の意見を述べるなどということは例が少ないので、みんなが彼の顔をみつめ、やはり一家のあるじであることを認めると同時に、この危急を救う妙案が出るものと信じて息をひそめた。だが、慶三はみんなの注視の的になってまごつき、ぐあいわるそうに顎を撫でるだけで、妙案らしいものを提出しそうにはみえなかった。