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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

もあり、たしか母親もあったと聞いたが」

その職人がぐれだして仕事にゆかず、家にある物を売ったり質に入れたりして、酒びたりになっていた。しかたがない、女房が自分ではたらこうとしたら、母親がそれを止めた。

「亭主がはたらいてこそ一家というものだ、亭主が呑んだくれて女房が稼ぐようになれば、その一家はこわれたも同然だ、と母親は云ったそうだ」たんば老は静かに頭を動かしてみせた、「――そのくらいならいっそのこと、一家そろって飢え死にをするほうがいいじゃないか」

女房はそれを亭主に告げ、おまえさんがはたらいてくれなければ親子もろとも飢え死にをするつもりだと云った。

「これは話だから、本当か嘘かは知らないがね」と老人は云った、「女房子が飢え死にをするというのに、黙って見ている亭主はないだろう、ものはためしだ、おまえさんもひとつその気になってみないか、人間はそうそう呑んだくれてばかりもいられないものだよ」

そのかみさんは二度とたんば老のところへは来なかったし、その亭主がたんば老から金を借りた、という噂も立たなかった。

これはこの「街」の伝説になっているので、真偽のほどは確かでないが、また、今昔物語だか古今著聞集だかに、似たような話が出ていたと思うが、ここの住人たちみんなが伝えているので、あえて読者諸氏の叱正を予期のうえ紹介する