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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「きっと段の野郎が吹っ込みやがったんだな」と或る男が云った、「あいつはしょっちゅうたんばさんとこへ入り浸ってやがったし、隣りどうしだったからな、たんばさんが小金を持ってるとかなんとか、吹っ込んだにちげえねえぜ」
「段て野郎は信用できねえ野郎だった」とべつの男が云った、「あいつはいつも千二百円札で洟をかむようなことばかり云ってやがった」
そうだそうだ、と賛成する者はいたが、その古くさい洒落がわかったようすはないので、いった当人は孤独感にとらわれたようであった。
古物商の小田滝三が、ここへ引越して来たばかりのとき、酔ってたんば老をたずね、なかまの某を叩っ殺すのだといきまいた。事情を聞くと、大切なとくい先を横取りされたのだという。そのとくいはめっぽう払い物の多い家で、空罐だの洋酒やビールの壜だの、雑誌、新聞、ぼろ類など、一度では運びきれないほど多量な品が、月に二度ずつ出るし、それらの代価は取らず、「片つけてもらう」のだからと云って、反対に三コ平均の金を呉れるのだ、ということであった。
「珍しいうちがあるもんだね」とたんば老は云った、「よっぽどの金持なんだな」