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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

そして島さんは、収拾のつかなくなった食卓の残骸を眺めながら、もういちどそれを組立てる気力が、自分にはもうないということを認め、こんなときにこそ例のデリケイトな発作がおこってくれればいいのに、とでもいうのか、鼻や口をしきりにもぐもぐうごめかせていた。

島さんがどういう勤めをしているのか、誰も知らなかった。尤もこの「街」では大部分の者がそうであったし、それを詮索するようなひまじんは数えるほどしかなかった。

そのひまじんの一人が、島さんの左隣りにいた。徳さんというひとり者で、本通りの向うに大きな繩張を持っている「築正」親分のみうちだ、ということを極秘でたれかれに耳うちをしている。本職の博奕打ちだ、と云いたいのであろう。としは四十がらみで、中肉中背のどこといって特徴のない、平凡で穏やかな人柄であった。

「あれはどうやら、ね」と徳さんは或るとき囁き声で告げた、「高利貸の出前持ち、じゃなかった、御用聞き、でもないか、つまり貸し金の取立てをやるやつさ、なんというのか、ね、――島さん夫婦の話しているのを聞いたんだが、どうもそんなようなからくりだとにらんだ、ね」

「どうもおかしい、あっしにはちょいと腑におちないんだが」