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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
月賦のズボンをよごしたのではないか、二つの丼を安定させながら、島さんはそう問いかけようとしたのであるが、その瞬間にいつもの発作が起こり、それがけけけけふんと鼻へ抜けるまで、問いかけを待たなければならなかった。
「オッケー、大丈夫だ」
松井くんはズボンの膝を撫でながら答え、眼の隅で勝手のほうをにらんだ。島さんは品のいい顔をほころばし、はじけタバコについて語りだした。三人の客たちは、怒りをいっぱいに詰めた風船だまのような顔になり、それでも島さんの胸の中がどんなであるかを推察して、しらけた気分を隠しながら、島さんの話にあいづちを打った。
そこへ奥さんが勝手から出て来た。片手に風呂道具を抱え、片手に手拭をぶらさげて、口には火のついたタバコを咥えていた。
「湯へいって来るからね」と奥さんは云った、「火はおこってるよ」
そして鼻唄をうたい、ぶらさげた手拭を振りながら、大股に出ていった。客たちは眼を見交わし、島さんは陽気にしゃべりながら、躯を振り振り立っていって、勝手で酒の燗をつけ、――それはガス台でやるのだが、次に二十センチ四方ばかりの板を持って来て、ちゃぶ台の脇に置き、さらに煉炭火鉢を抱えて来て、その板の上へしっかりと据えた。