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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「僕はその人を本当の父だと思っていました、いまでもそうとしきゃ思えないんです」と辰弥は云った、「僕の下に弟二人と妹が生れました、それが父の子なんですが、父は弟たちよりも、僕をいちばん可愛がってくれました、叱ることも叱るけれど、叱りかたでも弟たちとは違うんです、僕は母よりも父のほうによけいあまえました」
辰弥は五歳のときから英語を教えられた。進駐軍は半永久的に日本を支配するだろう、だから英語ができなければ、これからの日本人は生きていけないんだ、と父は云った。
辰弥が十二のとき、家出をした兄が帰って来た。父が仕事で大阪へでかけた夜のことで、そのことを慥かめて来たらしい。固太りに肥えて眼が赤く、髪もぼさぼさだし髭だらけで、荒い呼吸はむせるほど酒臭かった。
母は泣きながらとびついた。
母は辰弥に、これがおまえのじつの兄さんだ、と告げたが、辰弥には信じられなかったし、弟や妹たちは側へ寄ろうともしなかった。兄であるかないかというより、こわい男だと思ったのだ。
としは満で二十二歳だったろう。しかし見たところはずっとふけていた。酔っているために赤かった眼や、黄色っぽい大きな歯や、ぶしょう髭の伸びた、固太りの、膏でぎらぎら光っている顔は、特攻隊くずれ、などといわれた若者たちのようだし、ことさらにやさしい作り声で話す口ぶり